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天秤 [11月]

これでいいのだと
いくら言い聞かせても
心が解放されることはなくて

行き場のない思いが
あてのない空虚が
彷徨う自由が

ほどけていくほどに
自分を苦しめていく

望んだはず
求めたはず

決断したのは
自分なのに

幸せにならない
幸せになれない

必要ないと
いらないと

自ら望んで手放した

本当は

求めていることなんて
欲しがっているものなんて

今さら

考えなくても
感じなくても

容易に想像がつく

量ればそれは
幸せにしないと

知っているから
望んではいけない

今ですら
分不相応だと

分かっているから
全て捨ててしまいたかった

囚われたくなかったから
今以上に持たないようにした

最善の途を
選んだはずなのに

それは
誰も幸せにしない

守るべきものが多すぎて

自分が幸せになることを
どこか怖がってもいて

犠牲になればいいと
心が傷つけばいいと

一番楽な方法を選択しただけ

それで満足している

皆が笑ってくれているから
皆が愛してくれているから

自分の思いには
気付かないふり

誰かの思いには
感じないふり

本当にそれは幸せ
本当にこれが望み

誰のために
この人生を生きている

既に
手放したものを
諦めたものを

再び
欲しがらせないで
求めさせないで

やっと決めたのに
やっと忘れようとしてたのに

それがないと

生きていけないような
弱い生き物にしないで

自分が弱いということを
気付かせないで

そんなこと今更
教えてもらわなくても

分かっているから
知っているから

これ以上
迷いたくもない

今以上
苦しみたくもない

手に余るほどの幸せが
身体に纏わり付いて

進むことさえ不自由で

自分の意思では
身動きがとれないまま

歩みを止める

今在るものは

望んだはずの未来
手にした夢
満ち足りた欲望

事実とは裏腹に

蔑まれ
凌じ
悶える

自分の姿が見える

心は満たされることはなく
閉じたはずの後悔に
再び苛まれる

苦しめるだけだと
辛くなるだけだと
知りながら

逃れることはできず

未だ手に入らず
人を傷つけ
自分を壊す

手に入れた幸せは
どんな環境でも
変わることなく

自分の中にあるから
幸せと呼べるのだと

それが自由で
決して幸せとは呼ばないと

何を望んでも満足は程遠く

心から欲したはずの自由は
これが自由だと言えたところで

幸せにはならない

どんな生き方をして
何を選んだとしても

それが幸せだと
感じる義務があり

自分を言い聞かせるための
裁きを受ける

愛惜 [11月]

触れてもいない
この空間に

あなたの心を
感じたのなら

それだけで
幸せになれる

居るはずのない
この場所に

あなたの存在が
在るのなら

それだけで
輝きに満ちる

特別な何かが
欲しいわけじゃない

大切な何かは
もう分かってる

出逢っても
信じられなくて

触れ合っても
分かり合えない

いつまで待ち続けるのだろう
誰を探し続けるのだろう

ここ以外の場所で
生きられるはずもないのに

あなた以外の誰も
愛せるはずがないのに

いつまでも消えないのは
消そうとしない私のせい

どこまでも果てしないのは
歩もうとしない私のせい

それでも諦めきれない
いつまでも忘れられない

所以 [11月]

愛してる
それ以上の何かがあるのなら

きっと私は
ずっと知らないまま

愛だけが
あればいいから

愛してる
それ以外の何を見ればいいのか

きっと私は
もっとあなただけを

あなただけが
いればいいから

こんなに離れていて
ずっと逢っていなくて

それでも
思い出すのは
あなたのことばかりで

いつでも
覚えているのは
あなたのことだらけで

いつの間にか
行き先のない目の前に
途が見えたり

いつからか
辛いはずの目の前が
耀いて見えたり

あなたが何かしたのかって
そんなはずなくて

あなたに何かして欲しいのかって
そんなことなくて

勝手に心が震えるだけ
心の奥がざわめくだけ

きっと
あなたのせいじゃない

だけど
あなたのせいでしょう

虚空 [11月]

舞い散る穹窿に
手を伸ばせば

あなたに
届かないだろうか

あなたに
触れられないだろうか

いくら求めても
私の手には
届かなくて

もう
あなたは
いないのだと

もう
ここには
いないのだと

改めて
気付かされただけ

出逢ったことが
嘘みたいで

愛したことが
夢みたいで

あなたを抱きしめたくて
あなたを探している

降り注ぐ花びらは
可憐に風に舞って
私を通り抜けていく

肌をかすめるほどに
あなたを感じずには
いられない

ひとひら

手にした
記憶の断片

瞬きのように儚く

ただ
美しいと眺めていても

零れ落ちるだけだから

あなたは
戻って来ないから

くるくると舞い落ちる

ひらひらと流れ落ちる

二度と
手にすることはできない

あなたのような
花びら

儚い色は
今にも
消えてしまいそうで

淡い形は
今にも
壊れてしまいそうで

遠退いていくだけの
翳め往くだけの

あなたの存在は
あなたの記憶は

いつまで
私のものだと
言えるだろうか

こうして失った痛みは
いつまでも苛む

消えてしまうことを

いつまでも
受け入れられなくて

出逢ったことを

いつまでも
刻み込んでいたくて

なのに
離れるばかりで
舞い散るばかりで

あなたを
消し往くための

華の舞
風の音
涙の痕

私だけ
置き去りのまま

またここに戻る日を
夢見たまま

二度と届かないあなたに
手を伸ばす

露滴 [11月]

滴り落ちる雫は
止め様もなく

満ち溢れては
零れ落ちる

触れる全てを
濡らしながら

手放した全てを
滲ませながら

何度だって
諦めようとした

幾度となく
堪えようとした

求めていると
欲していると

気付いていても
知っていても

認めたくはなかったから
知りたくはなかったから

どうやって
止められただろう

どうやって
逃れられただろう

自分を追い詰めるほどの
強い欲望に

自分を追い込むほどの
熱い衝動に

手放せるなら

とっくの昔に
手放していた

諦められるなら

最初から
諦めていた

一番辛い現実だけが

いつまでも残っては
苦しめ続ける

尤も悲しい事実だけが

どこまでも追い詰めて
甚振り続ける

求めてはいけないと
欲してはいけないと

抑えられなくなった
今更になって

堪えようのなくなった
この期に及んで

ここまで来て
諦めることなんて

もうできないから

もう手放すつもりはない

倭文 [11月]

これは
何と言うのだろう

これを
何と表すのだろう

余さず
あなたへ伝えたくて

言葉を紡いで
表し難い想いを

複雑な模様に
織り成しても

伝えたい人には
届かない

手にして欲しい人には
触れられない

傍にいるだけで
感じ合う想いを

改めて言葉で
伝えることに

どれほどの意味が
あるだろう

それでも
確かなものなんて
何も手にしていなくて

言葉を紡ぎ

繋げることに
喜びを感じながら

あなたへと

美しい模様を
綾なし続ける

織り成すほどに
深まりを生み出し

魅了しながら
繋がり続ける

独りでは
為し得なかった

それを

自分のものだとは
とても言えなくて

伝えるべき相手が
目の前にいて

気持ちが
心が

乱れるほどに
絡まるほどに

手が届かなくなる
声が届かなくなる

言葉にできなくなる

繊細でありながら
複雑に絡み合う

綾なすほどに
触れるほどに
擦れるほどに

彩りを変え
味わいを変え

それ自体が

月日を物語り
時を止める

このたった一言に

どれだけの想いが
どれほどの時間が

紡ぎ合って
繋ぎ合って
重なり合って

いるというのだろう

手に馴染み
肌に馴染み
心に馴染み

今よりももっと

絡み合って
交ざり合って

あなた好みに
変化していく

この言葉を

どうやって紡ごう
どうやって繋ごう

あなたにさえ
届いてくれたなら

それ以上
何も

望まないのに

諸量 [11月]

大丈夫だと言われたら
それだけで信じられる

安心してと言われたら
それだけで安心している

確かな何かが
あるわけじゃない

明らかな容が
あるわけじゃない

あなたは
私にとって
何なんだろう

私は
あなたにとって
何なんだろう

理由なんて探していなくて
訳なんか求めていなくて

あなたの温もりが
優しかっただけ

あなたの言葉が
心を紡いだだけ

あなたの瞳が
真実を語っていただけ

何もなくても
あなたなら信じられる

何をしなくても
あなたなら委ねられる

きっと私は
あなたの愛に触れただけ

きっとあなたは
私の愛を受け取っただけ

輿図 [11月]

手のひらには
行き先の地図があるのに

地図の見方が
分からない

目的地までの行き方が
分からない

どうやったら
辿り着けるだろうか

どうやったら
出逢えるだろうか

まだ見ぬ未来へ

名も知らぬ人へ

ここからどうやって
歩めばいいのか

この先どうやって
進めばいいのか

何をすればいい

誰に聞けばいい

何もない自分に
何ができる

ここはあたたかいのに

ここは幸せなのに

ずっと
こうしている訳にはいかないと

ずっと
立ち止まって居てはいけないと

走り出せと
動き出せと

何かが捲し立てる
何かが蠢き始める

今手にしている
この地図は

本当に目的地へ
繋がるだろうか

本当の行き先へ
続くのだろうか

確信がなくても
証を持たなくても

それでも
信じて進むだけ

それでも
迷わず進むだけ

間違ったとしても
遠回りでも

いつだって
どこだって

何も疑わず
何にも囚われず

進むことしか
できないから


傀儡 [11月]

どうせ消えるなら
いずれ消えるなら

このまま
今のまま

こうしていたい

足掻いても
喚いても

きっと
どうすることもできないと

もう
どうにもならないと

痛いほどに
理解しているから

このまま
何も伝わらず

このまま
何も知らないとしたら

それでもいいと
笑って言える日が
来るとはとても思えなくて

それでいいと
割り切れずに
困り果てる姿は

自分によく似た人形を
抱いているようなものだ

こんなものは
いらないと
投げ捨ててしまえば

新しい何かを
我がモノとすることが
できるのではないかとさえ

思い違いしていることを
気付こうともしない

あなたが私の心を
壊してしまって

こんなにも永い時間
放置されたまま

余りにも甘く
余りにも辛い

あなたの気持ちが
見えなくて

私の気持ちを
消すことができない

満ち溢れる心はいつか
枯れてしまうだろうか

あなたを失っても尚
生きていけるだろうか

見なくても
触れなくても
構わないから

私の心を抱いて

溟渤 [11月]

乱れる身体は
何処までも熱く

零れる声は
何処までも甘い

溢れる感情に
何処までも溺れて

悶える空間は
何処までも終わらない

激しい痛みは
何処までも苦しくて

疾しい現実が
何処までも襲いかかる

震える唇は
何処までも溶け堕ちて

このまま
全てがなくなるまで
蕩けてしまったら

これから
全てを失うまで
溶け切ってしまったら

いつかこの愛は
枯れてしまうだろうか

いつかこの手を
離れてしまうだろうか

もっと欲しいと
寄り添えば

あなたはもっと
私にくれるの

もっと欲しいと
煽ったら

あなたはもっと
私を愛するの

もっと欲しいと
囁けば

あなたはもっと
私を壊すの

もっと欲しいと
喘ぐなら

あなたはもっと
私に溺れるの

放れられないのはどっち
忘れられないのは誰

この腕の中にいるのに
まるで独りみたいで

私が愛していいのは
私が生きていいのは

あなただと言って
此処だと言って

これで終わりだと
これで最後だと

もう二度と
放しはしないと

あなたに
辿り着きたいから