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孺子 [10月]

誓った未来を
壊してしまえば

また新しい玩具が
手に入る

そんなことを
繰り返せば

いつか
辿り着けると思っていた

それでも
玩具は玩具にしか過ぎなくて

いつまでも
満足は遠い先にある

あれが欲しいと
泣き喚けば

あなたが与えてくれる
誰かが慰めてくれる

可哀想だと
哀れだと

一緒に泣いてくれるから
一緒にいてくれるから

そうすれば

いつか
忘れられるでしょう

こんな痛みを
こんな記憶を

そうなれば

いずれ
消えてしまうでしょう

こんな現実も
こんな日常も

二度と手にできないくせに
二度と逢えなくせに

いつまで苦しめるの
どこまで追い詰めるの

どうして大切なものを
失ってまで生きるの

一縷 [10月]

言葉にすると
消えてしまうから

何も言わずに
目を閉じれば

消えてしまったはずの
あなたに逢える

真実なんていらない
答えなんて聞かない

ただあなたに
触れていたいだけ

ただあなたを
愛していたいだけ

あなたの痕を
忘れるわけがない

あなたの愛を
忘れられるわけがない

漣のように
決して終わることがないから

風のように
決して途切れることがないから

これで終わりだと
もう最後だと

誰が言えるの
どうして思えるの

逃れようにも
逃れることすら

赦されない

愛されないのに
愛されることばかりを

望んでしまう

触れるには程遠く
感じるには近過ぎて

見えないのに傍に居て
話せないのに声が聞こえる

正体は分からなくても
あなただと分かるから

幾ら話しかけても
何も答えない

幾ら追い払っても
何も消えない

共に生きることを
決めたのに

共に愛することを
始めたのに

傷つけるばかりで
悲しませるばかりで

自分だけではなく
あなたまでも傷つけてさえ

何も気付けない
何もせずにいる

手放せるはずがない
棄てられるはずはない

深甚 [10月]

愛しているから
見つけられないのだとしたら

それはきっと
見つけなくていいもの

あなたといることで
気付かないのだとしたら

それはずっと
気付かなくていいもの

他に何か
大切なものがあるのだとしたら

きっとそれは
あなたのことで

他にもっと
大事なことがあるのだとしたら

きっとそれも
あなたのことで

見えなくなるの
何もかもが

分からなくなるの
他のことが

愛してるの言葉では
足りないくらい

あなたのことばかり考えて

愛してるの言葉が
信じられないくらい

あなたのことしか見えなくて

幾ら紡いでも

届ける言葉に乗せる愛は
届けきれないほどで

どれほど想っても

伝える言葉に重ねる愛は
伝えきれないほどで

この足りない想いは
あなたで満たして

このもどかしい心は
あなたを欲しがる

玻璃 [10月]

僕が近づくだけで
涙が溢れる

僕が触れるだけで
震え怯える

そんなあなたを
どうやって守ればいい

黒い髪の
黒い瞳の

あなたが

黒い闇で
黒い影を

纏っている

透き通るほどに
蒼白した顔からは
表情が消え

溢れそうな涙は
その瞳から
零れることはなく

必死に
何かを
堪えている

誰も見ず
何も感じず

頑なに
心を閉ざして

まるで
硝子の壁に
蔽われているみたいに

あなたを
取り巻く闇は

あまりに妖艶で
触れてしまいたくなる

それが
破滅への途だと
分かっているから

ここから
先へは進めない

あなたに
触れられない

欲望に駆られて
堕ちてしまえば

後は
溺れるだけ

深い闇は
あからさまな欲望を
包んでくれるだろうか

あなたに
気付かれないように

あなたが
感じないように

本当は
あなたに触れたいのに
あなたが欲しいのに

あなたを
壊しそうで
苦しめそうで

実際は
自分が壊れていくことが怖くて
のめり込めずにいる

綺麗な貌を
どうして隠そうとするの

あなたは何を怯えているの

僕はこんなに近くにいるのに
あなたは僕を見ていない

怯えて
震えて
目を逸らす

緑の黒髪が
消えて
無くなりそうな

あなたを隠し
僕の存在まで隠す

あなたを
強く抱きしめられるなら

こんな想い
すぐに握り潰せるのに

瑠璃 [10月]

あなたの悲しみに
心奪われて

僕じゃないあなたが

僕を見ない瞳が
僕の声を聞かない耳が
僕を呼ばない唇が
僕を感じない心が
僕に触れない肌が

僕を離さない

震える身体を
独りで抱えて
誰の手もとらない

深い悲しみの底に
どうしているの

そこに
誰と居るの

いったい
何をしてるの

あなたの心には
何が映ってる

そんな表情をして
何を見てるの

そこから動こうとしない
痛みから逃げようとしない
辛さから離れようとしない

あなたを苦しめるモノは何

閉じた心の扉を開く鍵は何

理由はわからない

だけど
あなたから
目が離せない

このままじゃダメだと

いくら掻き消そうとしても
心から湧き上がる声が
僕を締め付ける

あなたのために
僕のために

どうしたらいい
いったい何ができる

どうして
僕じゃダメ

僕は存在していないの
僕は感じないの
僕は見えないの

僕に何ができる

あなたは
何を望んでいる

ねえ
手を伸ばして

ほら
僕はここにいる

あなたの
望むものでは
ないけれど

それでも
あなたの指で
触れることができる

ぬくもりを
分けてあげられる

あなたを
あたためることだって
できるのに

感じて

こんなにも
あなたを
感じていること

決して
独りではないと
証明してあげる

僕にだって
できることが
あると思うんだ

そんな悲しい貌をしないで

その瞳から溢れ落ちる涙を
その頬を濡らす涙を
零れ落ちる涙を

そのままにしないで

僕を見て

いつも
あなたの傍に
あなたの前に

いつも
あなたの隣に
あなたの後ろに

いつも
いつでも

必ず
いるから

守っているから

早く
気付いて

早く
僕の手を
とって

曲折 [10月]

溺れてしまえば

もう何も考えなくても
堕ちていくだけ

失ってしまえば

もう何も感じなくても
死に往くだけ

空虚は
こんなにも軽く彷徨い

寂寥は
こんなにも重く圧し掛かる

虚しさや寂しさや
悲しさや苦しみは

心を蝕んだとしても

今から逃れられるのなら
今を変えられるのなら

いくらでも
その痛みに耐えられる

いくらでも
その辛さを堪えられる

苦しさの狭間を
いくら彷徨ったところで

いつまでも現状は
変えられなかった

この場でこうしているのは
私だから

ここで生きているのは
自分だから

待ち望んだあなたは
もういないから

あなたなんて
もういらないから

愛することなんて
知らないから

変えられるはずなんてない

始めから失うものなんて
持ってすらいなかった

心も身体も
私のものですらない

それなのに

あなたを求めるなんて
あなたを愛するなんて

始めから
してはいけない

私が生き延びるなんて
私が幸せになるなんて

始めから
望んではいけない

紅唇 [10月]

あたたかくて
蕩け初めて

今にも形が
崩れ落ちそうなほど

あなたは
私を愛してくれる

それが偽りだとしても

この温もりだけは
否定のしようのない事実だ

あなたの熱で

このまま
蕩け切って

なくなってしまうのも
時間の問題

そんな願望さえ
容易に抱かせる

あなたの魔法

あなたの温もりは
心まであたため

錯覚に陥れる

これは現実ではないのに
これは求めてはいけないのに

いっそこのまま
本当に

溶けて消えてしまえれば
この痛みは安らぐ

私の心は
切なさを引き摺りながら
まだ彷徨う

いくら傷ついても
いくら泣いても

あなたしか覚えていないから

あなたしかいらないから

あなたしか見えないなんて

あなたを求めてはいけないのに
この先には何がある

傍に居たいと
触れていたいと
感じていたいと

これからもずっとと

思っていたけど
それも叶わないと気付いた

あなたの全ては
私の手には堕ちない

それを望んではいけない

あなたは愛してはいけない人

傍にいることを赦されないなら
せめて遠くからなんて

そんな簡単に割り切れるような
想いなんかじゃない

あなたの温もりを手放したら
もう生きていけないから

あなたを失って
生きている意味などないから

こんな狂おしい痛みを残して
あなたの愛が嘘だなんて
証明しないで

濃厚な時間は
甘くあなたの中でとろけて
為体をなくしていく

すべてを失う前に

霧がかかったように
遠退いていく前に

溶け出したのは

あなたへの想い
変えられない現実
苦痛に満ちた輝き
堕ちて行く夢
本当の気持ち

狂おしい甘さの中に
溶け落ちる姿の奥に
本当はもう何もなくて

全てを覆い隠していく

忘れろと言われているみたいで

忘れられるはずなんてなくて

あなたの中に留まりたいのに
もう無理だと

分かりたくないのに
痛いほど分かってる

あなたの柔らかい唇から零れ落ちる
蕩け切った甘い声は

心を擽るけれど
それを自分のモノにはできなくて

あなたの温かい唇から立ち昇る
誑かすような甘い薫りは

心を揺さ振るけれど
それを自分では止められなくて

待ち侘びている

喉を鳴らして
焦がれる視線で
朽ちた心で

後は音もなく
解きほぐされるように
脆く崩れ落ちるだけ

もうこのまま

あなたの中で

消えてしまえれば

あたたかさが
私を溶かすとしたら
私はもう元には戻れない

姿形を変えても

あなたの甘い唇を
記憶から消すことは
できなくて

朦朧としたまま
微睡んでいる

ここは

この感じる
あたたかさは

紛れもない

あなた